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輪島キリモト訪問レポート

現在 monova gallery で開催中の<輪島キリモトのテーブル展> 前回のブログでは展示についてご案内させて頂きました。今回は、8月に輪島に訪問した様子をご案内させて頂きます!

前回のブログ記事はこちら→ https://www.monova-web.jp/blog-20160918-wajimakirimoto-table-ten/

石川県輪島市は日本海に突き出した能登半島に位置し、漁業や農業、また輪島塗の産地としても有名です。

輪島塗は、数百年以上の歴史を持ち、丈夫で美しい漆器として日本全国の人々に愛されてきました。75~100以上の工程を手間を惜しまずに丁寧に積み重ねて生まれます。うるしは、一定の湿気と温度で固まる性質があるため湿潤な輪島の気候は、漆器の生産に適しています。(逆に乾燥した土地では、うるしは固まらないのです) 輪島では、漆器の材料となる木材が豊富に採れ、うるしの木の生産は全国で3位となっております。漆の木1本から摂れる漆の量ははわずか約200ccというから驚き。

能登空港から輪島に向けて車で約20分走ると、「ようこそ漆の里輪島へ」の看板が見えてきます。周囲には、輪島塗に縁のある木が植えられています。漆の木と、木地で使用される、アテ(档)/ホオ(朴)/ケヤキ(欅)/キリ(桐)/スギ(杉)がずらり。その横に何故か小さな柚子の木。柚子は、ゆべしというお菓子の材料に使用されます。日持ちするため、昔は漆器の行商の道中でよく食べられていました。

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輪島キリモトは、江戸後期から200年以上7代にわたり輪島塗に携わってきました。当初は塗師屋(ぬしや)として職人をまとめ、漆器の販売・営業といったプロデューサー的な役割をしていました。5代目で木地屋に転向し、木を刳ることを得意とする朴木地屋「桐本木工所」を創業しました。

木地屋2代目・俊兵衛さんの代には、特殊木地をはじめ大きな家具(座卓や飾り棚)を手掛ける設備を整えました。

木地屋3代目の泰一さんは、大学でプロダクトデザインを学び、企業でオフィスデザインに携わった後、輪島に帰郷。4年半木地師として修業を行い、木地業の立場から、漆器のデザインの提案、製造の監修を始めました。

輪島塗を、製造から販売を1つのところで行うのは輪島市内でも珍しい工房です。というのは、輪島塗は通常分業に分かれて作られているからです。工程ごとにそれぞれの工房が独立して作業を行っています。

木地業の立場から製品の形やデザインを決めることは今まで前例がなく、指示されたものを作るのみでした。泰一さんは、あらかじめ決められたデザインの木地づくりだけでなく、「使う人の立場や、現代の暮らしに合ったデザインにしたい」「自分が提案するものを作りたい」という想いから製品の発案~製造~販売まで一貫して行うようになったのです。

<輪島塗ができるまで>

沢山の工程がありますが、大きく分けて①木地づくり ②塗り(きゅう漆) ③飾色(呂色・沈金・蒔絵)に分けることができます。

①木地づくり
椀木地・・・ケヤキ、ヒノキ、トチノキ、サクラなどの木材が使用されます。ろくろ使い回転させながら刀を当てて丸い形状の器を作ります。挽物ともいいます。主に椀や湯呑などが作られます。
指物・・・ヒノキ、キリ、アスナロなどの木材を板状に加工して作ります。主に箱や重箱が作られます。
曲げ物・・・ヒノキ、アスナロ(アテ)、スギなどの木材を用い、側面の薄板を曲げて作ります。おひつや丸盆などが作られます。
朴木地・・・ろくろを使わずに主にホオノキ等の木材をのみや彫刻刀で削り、自由に立体的な形を作ります。刳りもの、ともいいます。主にスプーンや膳の足(猫足)、仏具などが作られます。

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正倉院の宝物「花形皿」の写し。かなり複雑な形ですね!ぴっしり対称に揃ってます。

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輪島キリモトの木材倉庫。30年以上寝かせた材木がずらり。作る製品の用途に合わせて木の種類を変えています。今では手に入らない貴重な木材も。お椀など作る際は、木が狂わないよう、燻煙乾燥(煙で燻す)をしたのち、再び寝かせて空気中の水分を吸わせてから使います。

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キリモトでは、朴木地と指物木地を自社工房で制作しています。一部の工程によっては、同じ施設内での作業が難しいため、椀木地づくり、一部の上塗りや加飾などは外部の工房にお願いしています。

キリモトの椀木地を作っている内の1人、寒長正造(かんちょうしょうぞう)さん。寒長さんは、とてもユニークで創造性豊か。木のねじ蓋のついた小さな筒や、木のボールペン作り、そして漆塗りもできるめずらしい職人さんです。ろくろでは難しい直線の形のコップも挽くことができ、キリモトのコーヒーカップも手掛けています。

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座る位置をかえながら、椀の外側を挽く方法は、輪島挽きと呼ばれています。木の輪のスケールを使って、形、大きさを随時確認しながら慎重に刀を当てて削っています。

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キリモトの工房へ。1Fは木材の加工の機材がずらり。キリモトでは6人の職人さんが制作を行い、うち2名が漆塗りを担当しています。

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木を刳り、スプーンを作るところ。削る場所やカーブに合わせて細かく道具を使い分けます。

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年季の入った道具入れには「大正元年」の文字が。

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思わず「可愛い!」と声に出したくなる豆かんな。使いやすいように職人さん自身で大きさを調節して作っています。

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②塗り(きゅう漆)
輪島塗の特徴ともいえるのか下地作りです。
大まかな手順を挙げると、木の継ぎ目に刀を入れ、木粉と糊漆を混ぜた物を詰めて平らにする(刻苧)→全体に生漆を塗って木地を固める→砥ぐ→破損しやすい場所に「寒冷紗」と呼ばれる薄い麻布を張っていく(布着せ)→下地漆を作って塗る→砥ぐ という工程になります。

下地漆は、地の粉と呼ばれる輪島市内で採れる珪藻土を焼成粉末したものと、漆、米粉を混ぜ合わせ作られます。地の粉を顕微鏡でのぞくと小さな穴が無数にあり、漆をよく吸収して堅牢な漆器の土台になります。地の粉は輪島市内の小峰山と呼ばれる場所でしか採集できず、限りある貴重な資源となっています。(あと100年分はあるそうです)そのため輪島の漆器組合の人だけしか手に入れることができません。

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これが地の粉。乾燥させたのち、焼成粉末にします。

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布着せして、布が重なった部分を削り落として滑らかにしている場面(着せ物削り)

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手前の桶に入っているのは生漆。箸を研いでいる様子。

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下地付けと砥ぎを繰り返し、中塗り・上塗りと何度も塗り・研ぎを重ねていきます。

丁寧に作られた輪島塗は、たとえ使用中に傷をつけてしまっても、修復でき、新品のように再び使うことができます。全て天然の素材でできているので、自然にも還るのです。

 

<輪島キリモトのものづくり>

輪島では漆は身近なもので、家の内装にも使われていました。防腐、防虫、防水に効果があり、柱や階段に拭き漆が施されている家が今も残っています。
キリモトが作る漆器は、このような日常の暮らしに馴染むシンプルな製品です。「昔当たり前に使っていたものを普段の生活で使って欲しい」「見る物や美術品としての漆器でなく、日常品として使って欲しい」という想いが込められています。

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独特なテクスチャーの上の写真のお椀。下地で使われる地の粉を、表面に近い層でも再度塗りこんだ「地塗り千すじ」と呼ばれるキリモトオリジナルの技法です。表面が固くなるため傷がつきにくく、金属の食器も使うことができます。
奥様の桐本順子さんは、「カレーが(泰一さんは)大好物だから、金属のスプーンでカレーを心置きなく食べられるように、漆のカレー皿を作ったんですよ。」と笑顔で語ってくれました。今では認められたこの技法ですが、当初はかなり反発があったそうです。

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和紙と漆、麻布、葛布といった天然の素材を組み合わせて、表情豊かで色の奥行きを感じる製品を手掛けています。

<バブル崩壊と能登半島沖地震>

バブル全盛期、美術品として高額な漆器が飛ぶように売れた時代がありました。異様な漆器の売れ方に疑問を感じていた泰一さんは、「この状況は長く続かない」と感じたそうです。「使う人の生活に合った形、日常的に使える漆の製品づくりをしていかないといけない」 この思いが現在の輪島キリモトのものづくりに繋がっています。

バブル崩壊と、2007年の能登半島沖の地震により、輪島は壊滅的な被害を受けました。産地全体で平成3年には180億円あった売上も、平成26年では39億円に。職人の数は全盛期の1/2になっています。産地では、今でも厳しい状況が続いています。

「漆の良さ、文化を伝えてく。最高の職人の技術を使い、工業製品には真似できないものを作る」

革新的なものづくりに対する挑戦を見ることができました。

丸1日かけて丁寧に工房を案内して頂いた、桐本泰一さん、桐本順子さん、工房の皆様、ありがとうございました。

テーブル展も10月11日まで。ぜひ見に来てくださいね!

 

輪島キリモトURL・・・http://www.kirimoto.net/

 

written by fujimoto