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「建築とプロダクトを繋ぐもの」展 架け橋となっているのは…

11月と共に幕を開けたこちらの展示会。建築の紹介と革小物が一緒に並ぶ空間は、なかなか他で見ることのない一風変わった展示かもしれません。

建築と革小物に何の関係が?と思われるかもしれませんが、実はどちらも一人の方が手がけたもの。今回のmonovaギャラリーは、建築家の佐藤宏尚氏が手がけこれまでに手掛けた建築のデザインの紹介と、革製品のブランド:SYRINXの製品を同時に紹介しています。「建築も、プロダクトも、課題を見つけ、それを解決する。課題の切り口が鋭いほど面白い」という佐藤氏。展示に並ぶ革製品は、どれもミニマルで使いやすいものばかりです。

小物の革には、イタリアで作られる「バケッタレザー」という分厚い革が使われています。普通、分厚い革というと固いのが一般的ですが、バケッタレザーはオイルをたくさん含んでいて柔らかいのが特徴です。バケッタレザーとは、イタリア・トスカーナ地方に9世紀初頭から伝わる「ヴァケッタ製法」によって生成された革のこと。SYRINXの革小物に使われる主な革の種類に「エルバマット(表面がすべすべ)「エルバマット テキサス(ベルベットのように、表面が少し起毛した感じ)」がありますが、エルバマットとは、天然のタンニンでなめされ、じっくりとオイルを染み込ませた革です。素材には、もっと美しく 高級といわれる、北欧産の牛の胴の部分を使用しています。

先ほどから、オイルをたくさん含んでいる、と紹介していますが、その量は通常の1.5〜2倍(原皮の約20%)。オイルケアをせずに、美しく使い続けることが可能です。むしろ皮革用オイルを使ってしまうと、革に存在する気孔が詰まってしまい、革が呼吸できなくなってしまいます。呼吸困難になった革は早く老化してしまうので、オイルケアしなくてもよい、というより、オイルケアはしないほうが良い、という革です。

表面はコーティングしていないので、傷はつきますが、多少の傷であれば指でこすると回復してしまいます。これも革にオイルがたくさん含まれているから。油分ってすごいんですね。

バゲッタレザーは、使うほどに色つやが深まっていくので、エイジングも楽しめます。本展示では、そんなエイジングが進んだ製品も展示しています。「革の育ち方」として、色や質感の変化を楽しみにされる革好きな方は少なくないと思いますので、そういった方はこの機会に是非ご覧ください。

さて、革の説明ばかりになってしまいましたが、ここからは製品の紹介です。

上の写真はiPhoneケースですが、縫製している部分は、端のL字部分のみです。スタッフのスマホケースと比べると、その無駄のなさは一目瞭然。

(▲左:SYRINXのiPhoneケース 右:スタッフのandroidのケース)

スタッフのものは手帳型なので、特に縫製や部品が多いですが、たしかに「ケース」というものの役割を考えたら、「中身を守ってくれる」以上の機能は、なくても良い、ともすると邪魔にさえなってしまうこともありますね。ちなみにスタッフは手が小さいので、こうした大きいスマホは、使用時にケースが障害になっていることがあったり…

縫製箇所が少ないことで、その分の縫い代が少なくて良いためコンパクトに、かつ価格も抑えることができます。

サイズは数種類あり、多くのモデルに対応しています。カラーバリエーションも、12色と豊富です。iPhoneに乗り換えたくなりますね。

 

かわって今度はこちら。写真手前に、縦3列、横4列にならんでいるこれらの製品は、いったい何だと思いますか?(奥に並んでいるのは、革の見本です)

金具を一切使わない、革でまとめ、革で挟むキーケースです。こちらは縫製はなし。厚みは鍵と革の厚みのみ。しっかりした厚みのある革だからこその製品ですね。

新製品で、まだ一般での販売は無く、monovaでも予約品となっています。

この製品を作るにあたり、従来のキーケースの問題を分析したところ、大きすぎる、片手で使いにくい、リングがかさばる、など、様々な課題を発見し、それらすべてを解決するキーケースを作ろう、と思って制作したのがこのキーケースとのこと。

鍵をまとめる革の結び方は、かさばらず、しかも解けない、というこだわりの結び方。製品には結び方ガイドがついているという事なので、一安心ですね。革紐は、金具と違って引っ掛かりにくく、鞄の中やポケットの中を傷つけません。

また、収納する鍵の本数によって、長さを自在に変えられるので、金具のようにだぶついてしまう事もないのが大きな利点ですね。いくつか並べてい置ていても可愛らしいので、夫婦・家族で色違い、という持ち方も素敵です。

 

この他、紹介しているのは

▲長財布。小銭入れ(内部左側ポケット)とカード入れ(内部右側ポケット)が重ならないことで、薄さを実現しています。お札の反対側(写真だと手前側の部分)にiPhoneも収納できるので、このお財布1つで出勤する、なんて方もいるそう。個人的には、お財布の外と中のエイジングの進度が違って、「ちょっと前はこんな色だったなあ」と楽しめそうなところが好きです。

 

▲短財布。長財布の後に作られたもの。ズボンの後ろのポケットに入れると、長財布はどうしても擦り切れてしまいがち、という事で生まれたのが短財布です。

こちらも長財布と同じく、小銭入れ(内部左側)とカード入れ(内部右側ポケット)が重ならないようになっていますが、より小さいので工夫がされています。

ご覧の通りダブルジップファスナーがついていて、1辺を開けると小銭が、もう1辺を開けるとお札とカードが取り出せるようになっています。

考えた事もないデザインなので、はじめは呆気にとられましたが、何度か開け閉めして慣れてくると、癖になる使い心地です。

 

▲めくる ペンケース。コンパクトで細身のペンケースにありがちな、中身が取りにくいという課題を解決しています。

 

▲ドキュメントケース。かっこいいドキュメントケースは意外にないもの。バケッタレザーを贅沢に使用した、シンプルだけれどもとても品のあるドキュメントケースです。

 

▲名刺入れ。シンプルながら目を惹くデザインで、来場者の方も「名刺入れ…」と呟きながら手に取る方多数です。スタッフも、初めて見た時は「名刺入れ…」と呟きました。

きゅっと包まれている印象で、どうやって取り出すんだろう、どうなっているんだろう、と、少しわくわくしてしまうデザインは、日本の「包む文化」をイメージしたものなのだそう。これも縫製はされておらず、革を折り重ねて名刺を包みます。写真右下のものが、エイジングしたものを展開した形です。折り重ねた時に内側になる部分と外側になる部分で色が違っていますね。展開図るたびに、「育ったなあ」と満足してしまいそうです。また、こちらで展示しているエイジング見本(写真左端、あめ色のもの)は24ヶ月使用したものですが、新品よりも革がずっとしっとりして、柔らかくなっています。

使い方は簡単で、上のパーツをぴっとはね上げるだけ。特徴的な形なので、会話のきっかけにもなりそうですね。

 

また、エゾシカのレザーを使った、柔らかいスピーカー「LOG」も必見。音を聞くことができます。

一般的な固いボディのスピーカーは、スピーカー自体が共振してしまい、音源とは音が変わってしまいますが、革で作ったスピーカーは柔らかいため吸音性に優れていて、スピーカー自体が共振しにくく、より音源に忠実な音が出せるようになっています。柔らかいので、上の写真のように、手でつかむとぐにゅっと変形します。新感覚です。

近年、エゾシカの過度の増加による森林破壊の話を聞くことが多いですが、現状ではそうした鹿を捕獲しても有効活用しきることはできていないといいます。LOGに使われる革は、そうした森林保護のために捕獲されたものを使用することで、エゾシカの命を無駄にせず、エゾシカ革の新たな可能性を広げています。

そもそも佐藤氏がプロダクトを手掛けたきっかけは、「家に合うスピーカーがなかったから」だったそう。「SYRINX」という名前も、ギリシャ神話のパン神の作った笛に由来していて、音響に関係しています。スピーカーにするのに適した革を探したところ、バゲッタレザーにたどり着き、スピーカーを作り、そのまま革小物作りも始めたそうです。

どの製品も名のあるデザイン賞を受賞していて、特に名刺入れは「おもてなしセレクション2017」、「ASIA DESIGN PRIZE2018 」、「IDEA2018(International Design Excellence Awards)FINALIST に選出」と、日本、アジア、世界のデザイン賞の三冠を達成しています。

どの製品にも共通するのは、「その製品の課題を見つけ、デザインで解決する」ということ。佐藤氏の建築にも、その考え方は反映されています。

展示最終日の11/13(火)16:00~17:00、この建築を紹介しながら、「デザインによるイノベーション」について、佐藤氏が特別講演を行います。

開催場所はOZONE5Fのセミナールームです。

参加希望の旨と、参加予定人数、当日ご連絡の付くお電話番号を明記の上、お申し込みください。

ご予約はこちらから。⇒https://www.monova-web.jp/inquiry

皆様のお越しを、心よりお待ちいたしております!

 

≪開催概要≫

-展示開催概要-

会 期 : 2018年11月1日(木)〜13日(火) 10:30 – 19:00/最終日は17:00迄 水曜定休 入場無料

会 場 : monova gallery

場 所 : 東京都新宿区西新宿3-7-1 リビングデザインセンターOZONE  4階

詳 細:https://www.monova-web.jp/category/inheld

 

-特別講演 開催概要-

会 期 : 2018年11月13日(火) 16:00 – 17:00 入場無料

会 場 : OZONE 5Fセミナールーム

場 所 : 東京都新宿区西新宿3-7-1 リビングデザインセンターOZONE  5階

 

Written by スタッフM