対談

monova対談 Darjeeling
monova対談「Darjeeling」(ダージリン)は、monovaプロデューサーの杉原広宣が、モノづくりに関わる様々なジャンルの方々へのインタビューを通じて、モノづくりの今を伝えるWEBマガジンです。つくり手、流通に関わるつなぎ手、そしてモノの使い手、皆さんに読んで楽しんでもらえる内容を目指します。
槇田 洋一氏プロフィール
株式会社槙田商店 常務取締役。横浜国立大学経済学部卒後、服飾雑貨メーカーに入社。百貨店担当として企画・提案・営業を行う。その後ブティック系列店の懐石料理屋の店長として招かれ、店舗運営、接客を通じ顧客への提案方法、マーケティングを学ぶ。2009年、槙田商店に入社。傘生地の企画・製造OEM営業を行う中、不況により、取引先製造拠点の海外シフトによる受注の減少に危機感を抱き、歴史・産地・技術を中心にした槇田商店オリジナルブランドの商品開発をスタートし、現在も積極的な活動を続けている。 <槇田商店HP> http://www.makita-1866.jp/

title01

koshu02

杉原:槙田商店さんは山梨県の郡内織物の老舗として知られていますが、その歴史はどのくらい古いものでしょうか?

 

槇田:槙田商店は1866年の慶応2年の創業ですので、今年で147年目に当たります。私で6代目ですね。

 

杉原:そうすると江戸時代末期ですね、江戸文化からは多くのモノづくり産業が生まれていますが、槙田商店の原点はどういったものだったのでしょうか。

 

 

パナマ運河

槇田:槙田商店がある山梨県の南都留郡(みなみつるぐん)、そしてその隣の富士吉田市、都留市など一帯は郡内地域と呼ばれ、富士山の豊かな湧き水を利用した絹の先染め織物が盛んだったんです。その頃の江戸庶民は華美な着物を禁じられた時代で「裏勝り(うらまさり)」という流行がありました。表地は茶や鼠などの地味な色に抑え、裏地に凝るのが「粋」とされていたんです。当時の郡内地域は、その装飾性の高い裏地を織りあげ江戸や大阪に卸していました。「甲斐絹」(かいき)と呼ばれるこの織物がこの地域の原点になって、今も引き継がれています。ちなみに、十返舎一九の甲州道中記にも甲斐絹の素晴らしさを伝える一節がでてきます。槙田商店は、今は南都留郡西桂町に本社がありますが、当時は、谷村(やむら=現都留市)という城下町に絹織物の取引所を開設し、甲斐絹織物卸業として事業を始めました。

 

杉原:その後、時代は洋服の文化になりますよね、着物の裏地を織っていた産地や槙田商店はどのように変化していったのでしょうか。

 

槇田:まず産地としては細い糸を染めてから織り上げる「先染め」の技術を活かして、それぞれの機屋さんが袖裏地や服裏地、そしてネクタイやドレス生地などの繊細な織物アイテムに特化するようになっていきました。槙田商店は昭和29年ごろまでは裏地の生産を主としていましたが、そこから4代目の判断で洋傘地の製造へとシフトをしていきます。技術者を招いて産地の協力会社と開発した防水・撥水技術と、普及し始めた化学繊維を先染め技術と融合して、これまでになかった「先染めの傘生地」に辿り着いたんです。そして傘本体の製造まで手掛けるようになって約50年になるところです。また昭和53年から始めた服地も今では槙田商店の主力品の一つになっています。

 

杉原:槇田さんご自身は家業を継がれてどのくらいになるんですか。

 

槇田:4年目になります。その前は懐石料理屋で働いていました。(笑)

 

杉原:随分と異なる業種にいらっしゃったんですね。(笑)

 

槇田:そうなんです。卒業後はまず東京の服飾雑貨メーカーに勤務しました。そこで知り合った妻の実家がブティックといっしょに懐石料理屋をやっていて、一時そちらでマネージャーをすることになったんです。全くの畑違いではありましたが、今思うと貴重な経験ができたと思います。お客様の反応がダイレクトに見られるので、料理の見せ方やシーズン毎の企画提案もやりがいがありました。30歳をめどに家業に入ろうと考えていたので、2年半だけでしたが店舗運営も含めてとても勉強になりました。

 

杉原:お客様への見せ方や提案方法なんかは通じる部分がありますよね。現在は槙田商店でどのような役割をされているのでしょうか。

 

槇田:主に傘地、服地、傘の営業になりますが、会社全体の把握やお客様の要望を直接伝える為に商品開発担当者や協力会社との調整などもしています。

 

title02

絵おり杉原:傘は価格帯も広く、素材も形状も様々なものがありますね。槙田商店ブランドの傘はどういった特徴があるんでしょうか。

 

槇田:「織物屋がつくる傘」というのが一番の特長です。持ち手や骨や絵柄にこだわった傘は沢山ありますが、オリジナルで生地のデザインから織り、傘製造まで一貫している傘メーカーは少ないと思います。ましてや先染め織物のジャガード織りとなると、うちくらいではないでしょうか。様々な糸を使って絵柄を作れるのは強みですね。

 

杉原:他の傘生地との違いはどこに表れるのでしょうか。

 

eori_himawari_03

槇田:市販されている安価な傘の多くはプリント印刷なので、絵柄が平面的で裏には全く絵柄が入りません。槙田商店の先染めのジャガード織りというのは、先に染めた色付きの糸を何本も使って絵柄を織り上げていくので、発色も良く、絵柄に立体感が生まれ高級感がでます。裏には反転した絵柄が入るので、傘をさしている人も絵柄を楽しむことができます。富士山の湧水でムラの少ない染め方をしたり、最新の電子ジャガード織機を導入して大きく大胆な絵柄を取り入れたりしながら、色々と工夫しています。

 

杉原:確かにmonova店頭で傘を見るお客様も生地に感心されることが多いですね。絵おりシリーズの傘は絵柄によって持ち手が違いますが、持ち手にはどのようなこだわりがあるんでしょうか。

 

槇田:単純にその傘生地に似合う持ち手に変えているだけなんです(笑)重さや持ちやすさはもちろん考えますが、あくまでも生地がメイン。織物屋の傘ですから。

 

杉原:効率を考えれば、同じ持ち手の方が生産性は良いと思いますが、徹底して生地を美しく見せる事にこだわる織物屋の想いを感じますね。

 

杉原:使い捨てのビニール傘で良いという人もいますが、良い傘を持ちたいと思っている人も多いと思うんです。ただ、値段があまりにも違うので二の足を踏んでいるように見えます。現在、国産の傘の需要はどうなっているんでしょうか。

 

槇田:市場の約9割は海外産、主に中国産です。また近年、日傘の需要が伸びて、大手百貨店さんでは雨傘と日傘が5分5分くらいになってきました。明るい日差しの中で装飾性も機能性も求められるので、槙田商店としても力を入れていきたい分野ですね。

 

 

 

杉原:良い傘だと判断できる情報があれば、購入に踏み切りやすくなると思うのですが、槇田さんが考える「良い傘の選び方」を教えて頂けますか。

 

槇田:使う人によって必要な機能が違うとは思うので、あくまで目安ですが、ひとつは「JUPA(ジュパ)マーク」ですね。日本洋傘振興協議会が洋傘の品質・信頼・安心の証として発行しているマークです。厳しい審査基準があるので、これがあれば撥水や安全性、強度などの一つの基準になります。槙田商店の傘は内側のタグと骨のシールで確認できます。ただ、この協会に属さずに独自の基準を持って、良い傘を作っているメーカーも沢山ありますので、マークが無いからと言って悪い傘という訳でもありません。

 

JUPA

杉原:傘にも品質基準マークというのがあったんですね。確かにこれまで気にしたことがありませんでした。槙田商店の傘のような「生地の良さ」というのは手触りや見た目からも伝わりやすいですが、骨についてはどうですか。どんなものが良い骨なんでしょうか。

 

槇田:代表的な骨材だと鉄骨、アルミ、グラスファイバー、カーボンがあります。選び方となると、それぞれ一長一短があるので一概にどれが良いというのは難しいですね。例えば、鉄骨は強いですが重さがでる。アルミは軽いですが柔らかい。グラスファイバーは重さも強度も中間くらい。カーボンは軽くて強いんですが、供給が不安定で高価。しなり具合なども違うので、槙田商店では作りたい傘の重さやフォルム、生地などに合わせて、全体のバランスをみて使い分けています。

 

杉原:なるほど、槙田商店の傘はよく見ると骨の色もそれぞれ違いますね。普段意識はしてませんが、骨は傘をさす本人から見える部材でもあります。購入するときに開いて確認するのも大事ですね。

 

槇田:傘は裏側も大事です。特にうちの傘は裏側の美しさにも気を使って作っているので、ぜひ開いて見て頂きたいです。

 

title03

杉原:まもなくmonovaギャラリーで「織物屋がつくる傘・日傘展」を開催して頂く予定ですが、これまでの話に出た絵おりシリーズの他にもユニークな傘を出品されますね。特にmoZaiQue(モザイク)と1866(イチハチロクロク)は目を惹きます。全く新しい発想のデザインだと思うのですが、どんなきっかけから生まれたんでしょうか。

 

mozaique4

槇田:moZaiQueは、実は元々ディスプレイ用に作ったアイテムなんです。ギフトショーに出展する際に何か目を惹くものが欲しかった。社内でアイディアに悩んでいたんですが、そのミーティングルームに並んでいる沢山の洋服生地がふと目について「これで日傘を作ったら面白い!」と思ったんです。それも普通の傘屋さんでは張らないような傘の張り方で。ただのディスプレイのつもりでしたが、展示会ではこの傘に対しての質問がとても多く、そこから商品化に向けて本格的に動くことになったんです。

 

 

 

杉原:シルクのような極薄生地から、テクスチャーのある個性派生地まで全く質の違う生地を傘に仕立てるのは、とても高い技術が必要でしょうね。

 

槇田:そうですね、性格の違う生地を貼り合わせる高い職人技術も必要でしたし、傘にできる生地かどうかの目利きも大事でした。槙田商店の織り、目利き、職人技術のすべてが揃って初めてできた傘です。

 

杉原:「10色の光を楽しむ世界に1本の傘」というコンセプトも面白いですね。

 

槇田:日差しを楽める日傘にしたかったんです。10枚の違う傘地なら、10色の違う色の光が差し込む。しかもそれが世界に一つの組み合わせだったら、強い日差しの中、外出するのも楽しくなりますよね。

 

 

 

1886_img

杉原:1866(イチハチロクロク)の方もかなり凝った作りですね。見る角度で色が変化する外側の生地。さらに内側には大胆な絵柄の生地が張ってある傘なんて、見た事がありません。

 

槇田:外側の生地は経糸と緯糸に違う色を使うシャンブレーという織りです。先染めならではの玉虫色のような美しい光沢が生まれます。内側にも生地を張る技法を「蛙張り(かわずばり)」といいます。レースの日傘で使われる伝統の技法で、内側の生地で骨を隠してより美しく、生地を2重に張る事でUVカット効果も高まります。内側は豊かなバリエーションが楽しめる服地を採用しています。服地の織り、傘地の織り、傘の仕立て、この1本に槙田商店のすべてが集約されたフラッグシップのような傘という事で、創業年号の「1866(イチハチロクロク)」と名付けました。

 

1866-uzu-blue-sideA

 

杉原:140年の織物技術と50年の傘技術の融合ですね。見る立場によって傘の内側は表にもなる。傘に裏を作らない槙田商店の視点は、生活者目線のモノづくりをしている証拠のような気がします。これからの槙田商店の展開も楽しみですね。今後はどのような事を目指されていくんでしょうか。

 

 

 

 

1866スタンド

槇田:織物屋がつくる傘ですから、ファッションアイテムのひとつとして、当たり前に選ばれる傘の地位を確立したいですね。それには傘づくりの背景まで知ってもらう環境づくりが必要だと思っています。まだ売店くらいの規模ですが、山梨に傘を見てもらえる販売店を作りました。さらに作り手の販売会参加や工場見学などを通じて、一般の方々に傘づくりや織物づくりの想いに触れてもらう。作り手側も消費者と直接ふれあってより良いモノづくりを発展させていく。双方向の効果を見いだせるシステムづくりを提案していきたいです。

 

杉原:ブランド名でなく、生地と作り手で選んでもらえる傘ですね。魅力的な生地であれば傘はファッションにより近くなりますね。

 

槇田:うちの産地は郡内織(ぐんないおり)といって地域全体で織物を営んでいます。傘生地からでも郡内織の生地を使うことがステイタスとなるような、産地全体の活性化につながれば良いと思っています。

 

杉原:monovaとしても引き続きお手伝いをしていきたいと思います。槇田さん、本日はありがとうございました。

 

 

◆◆◆槇田商店「織物屋がつくる傘・日傘展」◆◆◆ http://www.monova-web.jp/2282

 

会 期: 2013年6月13日(木)~6月25日(火) 10:30 – 19:00 / 水曜定休 入場無料

 

会 場: monova gallery 東京都新宿区西新宿3-7-1 リビングデザインセンターOZONE4階monova

 

主 催: 株式会社槙田商店 協力: LLP.プラスディー