対談

monova対談 Darjeeling
monova対談「Darjeeling」(ダージリン)は、monovaプロデューサーの杉原広宣が、モノづくりに関わる様々なジャンルの方々へのインタビューを通じて、モノづくりの今を伝えるWEBマガジンです。つくり手、流通に関わるつなぎ手、そしてモノの使い手、皆さんに読んで楽しんでもらえる内容を目指します。
中村 真一郎氏プロフィール
All About スタイルストア事業責任者 兼ストアマネジャー。大学卒業後、亜鉛製錬メーカーへ入社。秋田工場勤務、営業、生産管理、事業企画立案などの職務を経験したのち、2005年に株式会社オールアバウトへ入社。金属という硬い産業からインターネット企業へと転身した。経営企画・人事責任者を経て、2009年10月より現職。取引先である全国各地のつくり手の話を聞く機会を得て、産地を取り巻く環境の厳しさとともに、若手を中心に状況を打開しようとする想いに大きく共感。日本のモノづくりの継続に寄与できるようにと、多様な職歴を活かし、積極的に新たなサービスを展開している。

杉原:まずAll About スタイルストアの歴史をおしえて頂けますか。

All About

中村:「All About」というインターネットの総合情報サイトを2001年にはじめました。「その道のプロがあなたをガイド」をテーマに、インターネットというテクノロジーの世界で「人」がナビゲーションするというコンセプトで作っているメディアです。その中の新規事業として、こだわりの商品を集めた「All About スタイルストア」を2005年に立ち上げました。
杉原:そのAll About スタイルストア(以下「スタイルストア」で略記)では、日本のモノづくりを取り上げてらっしゃいますよね。
中村:そうですね。当初はAll Aboutのメディアからの流れで、スタイリストさんやバイヤーのセレクトで、雑誌のようなキレイなコンテンツの「スタイルカタログ」を毎週作ってました。そして2006年から「つくり手」というコンセプトを打ち出して「選ぶ側よりモノを作る側にフォーカスしましょう」ということになったんです。作家や産地の生産現場の方々にスタイルストア内の「つくり手ブログ」のアカウントを取ってもらい、メーカーやつくり手が自分から発信するという事が当時は革新的だったと思います。
杉原:つくり手にフォーカスした結果、日本のモノづくりに縁が深くなっていったんですね。

All About スタイルストア

中村:そうですね、「つくり手ブログ」をオープンした2006年当初のつくり手は100人だったんですが、今は700人ぐらいいますし、全国47都道府県すべてカバーしています。
杉原:700人!すごいですね、どのように探しているんですか?
中村:バイヤーが展示会や産地やWEBサイトを駆けずり回って探しています。徐々にサイトの知名度も上がってきたので、つくり手からお声がけ頂くこともあります。
杉原:全国にいるつくり手の方々の参考にお聞きしますが、バイヤーの方はどんな目線でセレクトされているのでしょうか?
中村:掲げている選定基準として1つは「続くこと」。それは環境や値段や、あらゆることを考えて、つくり手が作り続けられるということでもあり、消費者が使い続けられるということもある。無理して作るものや一時的な流行りモノは基本的に選ばないです。その産地のものづくりを継承することに役立つ、という視点も時には含みます。2つ目は「その人ならでは」。つくり手さんが持っている技や産地に基づく技術、やりたいコンセプトとの整合性など、その人が持つストーリーを重視します。
3つ目は「ユーザーの幸せが想像できること」。つくり手だけの満足ではなくて、お客様が、使いたい。それ欲しいな。といえるモノ。まあ、当たり前のことになっちゃうんですけど。

つくり手ブログ

杉原:でも、とても大事なことですね。

杉原:スタイルストアはつくり手自身が発信できるから、つくり手のみなさんに喜ばれているんじゃないですか?
中村:そうですね、おかげさまで。(笑)まだまだの点が多々ありますが。
杉原:monovaでもつくり手を紹介しているんですけど、直接出てきて世の中にさらされるっていうのは大事ですよね。東京に度々出てくるのは大変ですけど、その点WEBは、そこにいながら直接エンドユーザーにつながれる。生活者の声もフィードバック出来るようになるから、各地域のつくり手に有効なツールですよね。
中村:本当にそうだと思うんですよ。既存の流通を取り巻く環境や、機能が変化していく中で、何やったらいいのって、まず間違いなくWEBだと思うんです。WEBの特長って場所や時間を選ばないことと、その拡散力。ものすごい低いコストで一斉に大量の人とつながれる事と、その双方向性を活かして、フィードバックがもらえること。多分、ブランディングに必要な要素が全部揃ってる。つくり手が自分でブランドを商流に頼らず作っていこうとすると、WEBほど適したメディアはないんじゃないかなと思います。
杉原:そんなWEBならではの、人気になる商品のポイントはありますか?

高橋工芸/Caraボウル

中村:人気になる商品というのは、結局リアル(店頭)と一緒になってくると思うんですが、オリジナリティがハッキリしていることが大事ですね。デザインも含めて。それを伝える写真は特に大事です。WEBはすぐに別のページに行けてしまうので、大概、写真しか見ないんです。
最初の写真でかなり商品の実力って伝わるんですよ。他と違うポイントや使用するシーンが伝わる写真になっていることは重要ですね。
あとは、ユーザレビューなどのお客さんの要望をつくり手さんに取り入れてもらい、その商品が売れたりすると、私達もうれしいですね。
杉原:スタイルストアの購入者層はどの年代の方が多いんですか?リピート客もけっこう多いようですね。
中村:30~40代が中心で、6割ぐらいはリピーターです。取り扱う商品がじっくり時間をかけて作るもので、安いものでもない。だから買う側もじっくり選ぶ、という傾向があるんですが、それでいいと思ってます。
特にギフトによく選んで頂いていますね。30代だと結婚、出産、引っ越しなどのライフイベントが増えてきて、ある程度収入も増える。自分の暮らしを見直して、ちょっといいモノ買おうかなって時期です。そういう時にじっくり選ぶ場として使ってもらえている感じがします。
杉原:購入のきっかけも大事ですよね。つくり手への共感がそのきっかけになると良いなと私は思うんです。僕らのようなつくり手の周辺の人間が伝えることも大事ですけど、それをきっかけにつくり手とユーザーが直接つながってもらえるたら本当に嬉しいですよね。
中村:そうですよね。つくり手さんと会って話をすると大体、その商品が欲しくなりますよね。(笑)だって、つくり方へのこだわりや背景のストーリーがすごいんですもん。

m+/ウォレットMILLEFOGLIEⅡP

杉原:スタイルストアとして、今後目指す目標は何ですか?

KIHARAこだわりの茶葉ポットと湯呑2個セット

中村:バイヤーの世界観に左右される「セレクトショップ」という価値は、それはそれで磨き続けつつ、立ち位置を拡げていった方が良いのかなと考えています。WEBの強みと、全国約700人のつくり手のリアルなネットワークがあって、モノをお宅まで届ける機能も持っている。これらを活かして、まず明確にやりたいことは「つくり手の支援」につながるような位置付けでお店を運営していきたい。モノづくりが続いていく上で、役に立つ仕立てにしていきたいですね。
中村:具体的には、今やろうとしてるのは「つくり手が作る地域のガイドブック」というコンセプトで、つくり手に自分のモノづくりも含めて、土地の情報を県外のお客さんに向けて情報発信してもらおうと思っています。いわゆる観光誌じゃなくて、モノづくりに寄った現地の情報で、読んだら結果的に例えば有田や旭川に行きたくなるような、モノに興味のある人のためのガイドブックができるんじゃないかと思っています。
取引のあるつくり手やその仲間の皆さんに、自由にスタイルストアの機能や場所を使って頂いて、地域からモノづくり情報を発信していく輪を広げて、つなげていきたい。
全国の100産地くらいで、そのガイドブックができると面白くなるかなと思っています。
杉原:その地域の歴史や文化的な背景からモノづくりが生まれている事が多いから、それを語ることで、「その人ならでは」というモノづくりの必然性が見えてきますね。
中村:そこがまた深みになりますよね。有田焼は400年続いてる、すごいですよ。伝統って、変革する力がすごいんじゃないかと思っています。多分その400年の間に何度も危機があって、そのたびに色々なものを変革して、今も続いてるんじゃないかな。

つくり手がつくるガイドブック

杉原:それが途絶えるのは、本当にもったいないですよね。その他に「つくり手マーケット」というのをスタートしたと聞いてますが、どういうものなんですか?
中村:一定の審査はするけど、基本的になるべくオープンな場、青空の下でやる広場のフリーマーケットのプロ版のようなイメージのものです。つくり手たちに自由に商品を持ってきてもらって、自分で売ってもらう。そこにお客様がやってきて、つくり手とダイレクトに話をして「これいいね」「どうやって作ってるの」とか、コミュニケーションをとる。そういう「展示即売会」、「青空つくり手市」みたいな場所をWEBの世界に作ろうと。今までのセレクトショップの形態だと取引できなかったつくり手も自由に参加できるし、私たちとしてもつくり手との接点が増えます。
杉原:自らWEBでショッピングサイトやるのは、コストも手間も掛かる。モノを作るのが本業ですから、売るのは出来るだけ負荷をかけたくないっていうのもありますね。
中村:最終的には良い販路を持って、コントロールしながら売ってもらう、でいいと思うんですが、それをやりながらも、最低限の自分の発信、販路に届くための発信というのがありますよね。継続的に発信することがWEBの世界ではすごく有効です。一番コストパフォーマンスの良い集客ブランディング施策です。ドーンとお金をかけてWEB広告を出すとかじゃなくて、週1本で良いのでとにかく記事をずーっと貯めていく。と、年50本になりますよね、それがすごく大事なアセットになるし、一番大きな効果をもたらしてくれる。継続ってキツイですけどね。(笑)そのくらいの所で一線を引いて、あとは作ることに集中していけば、バランスが良いんじゃないかなと思います。

つくり手マーケット

杉原:つくり手マーケットを使って発信してもらえれば、活性化していいですね。
中村:日本のモノづくり関係者みんなに参加してもらえるような場所にしたいんです。
今、市場を含めて、日本のモノづくりの力が弱まってきているとしたら、みんなで協力をした方が良い。その方が大きな力が出せますから。
杉原:スタイルストアで沢山のつくり手がそれぞれの想いを発信できれば、にぎやかで大きな力になりますね。期待も大きいです。私もその場所づくりに共感します。今後も宜しくお願いします。中村さん、本日はありがとうございました。

 

 

 

< インタビュアー 杉原 広宣 プロフィール >
1972年埼玉県生まれ。2001年より日本のモノづくりに関わるようになり、
これまで手掛けた製品開発、展示会企画などのプロジェクトは、有田焼、山中漆器、今治タオル、越前和紙など。
2011年にmonovaをオープン。各地域のモノづくりに貢献するべく今日も奮闘中。