対談

monova対談 Darjeeling
monova対談「Darjeeling」(ダージリン)は、monovaプロデューサーの杉原広宣が、モノづくりに関わる様々なジャンルの方々へのインタビューを通じて、モノづくりの今を伝えるWEBマガジンです。つくり手、流通に関わるつなぎ手、そしてモノの使い手、皆さんに読んで楽しんでもらえる内容を目指します。
五十嵐 洋氏プロフィール
設計事務所勤務を経て、創業期のインテリア雑貨ベンチャー(株)イデアインターナショナルに入社。様々な業務を経て、コミュニケーション部長として、全社プロモーションのディレクションを行い展示会やイベント、PRなどコミュニケーション業務を中心に活動。またデザイン雑貨ブランド「TAKUMI」の立ち上げ、インテリア雑貨、オーガニックコスメブランドのPR、店舗開発、などを行い会社を株式上場に導く。2010年に独立。分野を超えた幅広いコミュニケーション・プロモーション活動を行っている。また障がい者自立支援団体セルザチャレンジのPR・プロモーション担当も行う。 <Casokdo HP> http://www.a-ms2.com/

 

杉原:まずは前職のイデアインターナショナルでの経験や、今のお仕事に至る経緯を教えてください。

 

五十嵐:大学は建築学部だったんですが、建築の特にコンセプト部分、根本を考えるところが好きでした。そこがプロダクトと通じるところがあって、インテリアメーカーのイデアインターナショナル(以下イデアで表記)の商品企画部に入社したんです。 この業界に入って肌で感じた事ですが、モノづくりは出来て当たり前で、それをどう伝えていくかが次のステップとして重要なんですよ。その為には商品企画の他にも全体を俯瞰して見ることがとても大事で、そこを培うことが出来たのは、ベンチャー企業に入ったおかげだと思っています。商品開発、デザイン、営業までプロジェクトを全て自分で管理した経験があるのは、僕の強みの一つですね。

 

杉原:大きな企業に入ってしまうと、どうしても職務内容が限定されてしまいますからね。

 

五十嵐:イデアが小売を立ち上げた時期でもあったので、販売方法やお客様とのコミュニケーションの取り方も学べたのは貴重でした。10年ひと区切りというのもありましたが、その後独立して事業を興したい気持ちがあったんです。今のインテリア業界を見渡してみると、企業としてのコミュニケーション力がまだまだ弱いと感じていたので、インテリア業界を盛り上げるためにも、業界全体の情報発信力をサポートする仕事がしたくて、今のCasokdo(カソクド)を立ち上げたんです。

 

杉原:インテリア業界に、足りない部分があると感じたんですね?

 

五十嵐:やはり、アパレルや建築、広告と比べてとても業界が小さいですよね。同じデザイナーでも広告なら幅が広くて活躍できる場が沢山ある。それがプロダクトになると、情報発信できる場も活躍できる場もほとんどないというのは、イデアにいた頃から感じていました。 だからこそデザインやインテリアをもっと多くの人に伝えたい。それが独立してすぐに経験をいかし実践できると感じたのがPRの仕事だったんです。まだインテリアのPRをフリーでしている人間は少ない上に、幅広い業種のサポートが出来る。それが今の仕事を始めたきっかけです。

 

 

杉原:独立されてから2年が経ちますが、今はどんな事業を手掛けられているんですか。

 

五十嵐:基本的にはインテリアメーカーやモノづくりメーカーの外部広報として動いています。新商品や新店舗、イベントの案内ですね。これまでの人脈を活かして、メディアを通じて一般消費者へ伝えるPRを主にしています。その他にも情報を伝える為に商品企画から関わることもありますし、すでにある商品のプロモーションや営業戦略を考えて販売の部分をサポートすることもありますね。その会社の状況に合わせて僕が入るパートを変えています。

 

杉原:モノづくりの企画から販売まで、様々な形で携わっているんですね。インテリア業界の外部広報はまだ少ない業種ですが、皆さんに喜ばれてばれているのはどういった点でしょうか。

 

五十嵐:メディアは常に新しいショップのオープン情報などを欲しがっていますし、地場のモノづくりの方は人手不足と苦手なPRのサポートをしてもらえる。その点が喜ばれていますね。

 

杉原:五十嵐さんがPRをする上でのこだわりは何かありますか。

 

五十嵐:重要なのは差別化だとよく言われますが、いかに新鮮さを整理するかがやっぱり大事ですね。メーカーはどうしても技術やスペックに寄りがちなのですが、実は買う側にはそんなに必要ない情報ですよね。そうじゃない差別化の部分をどう掘り出すかに特に注意しています。

 

杉原:五十嵐さんが携わっているセラミック・ジャパンのアイテムで言えば、例えばどういったポイントになりますか。

 

五十嵐:代表的なdo-nabeで言えば、IHで使える機能性と収納する際の利便性。そこをフォーカスすると紹介しやすくなります。IH使用の為に生れた形状ですが、そのおかげで土鍋以外としても活躍できる。通年通して使用できるので本来の土鍋のように長期の収納をしなくて良いという流れが生まれます。こういった使い方提案のあとにデザイナー情報や瀬戸という産地の背景を伝えていくようにしています。

 

杉原:そういった生活者目線は確かにメーカーが見落としがちな部分ですよね。

 

五十嵐:自ら作っていると、どんなにすごいものが出来たのか伝えたくなりますからね。PRするターゲットによって伝える情報を使い分けるのが一番大事です。例えばモノづくりをフォーカスする雑誌であれば、モノづくりの背景を伝える。デザイン系の雑誌であればデザイナーを打ち出す。でも一番大事なのは実際に買ってくれる人に、どんな生活の良さを与えられるのかを整理して伝えることです。 そういう客観的な視点は、私がお客さまと直に接したショップの業務の経験が生きていますね。

 

杉原:外部広報ならではの良さですよね。いつも新鮮な目線で商品を見て、何が生活者に響くのか判断できますからね。   五十嵐:モノづくりっていうのは、本当は「誰かをよろこばせたい」「生活を便利にしたい」って気持ちが最初にあると思うんです。それがいつの間にか「自分たちのここが凄い」にすり替わっていることが多い。その最初の気持ちを思い出してもらうと、コミュニケーションのポイントが整理されて良い結果になると思います。

IH対応土鍋。オーブン調理、蒸し器などとしても使用可能。

デザイナー/秋田道夫、製造/セラミック・ジャパン(愛知県瀬戸市)

 

 

 

杉原:五十嵐さんは企業PR活動の他に「セルザチャレンジ」という活動に参加されていますよね。こちらはどういった取り組みですか?

 

五十嵐:各分野のプロがその知識や能力を社会に対して還元していく「プロボノ」(pro bono)という取り組みがあるんですが、「セルザチャレンジ」もその一環で、特に福祉業界に対してのボランティア活動をしています。障がいのある方たちの作業所の製品の企画開発や販売戦略の手助けですね。コンサルティング、ライター、デザイナーと様々なメンバーがいるので、ヒヤリングから必要な分野を判断して何でも手掛けています。

 

杉原:活動の範囲はどのあたりですか?

 

五十嵐:国内に限らずどこでも行きます。国内のNGOと協力してネパールやバングラデシュにも行きましたし、震災後は岩手にも足を運びました。

 

杉原:今取り組んでいる主な事例を簡単にご紹介いただけますか?

 

五十嵐:国内ですと、新潟の福祉作業所で作り始めたリネンウォーターの開発などを手掛けています。 福祉業界もいろいろと変わって、福祉作業所の多くは障がい者の方が一般の企業に就職できるように就職支援をしていく。就職が難しい方のサポート施設は賃金アップをしていこうという流れなんです。平均月収が五千円から一万円くらいなんですよ。国から補助をもらっていても、まだまだ低いですよね。福祉作業所の仕事は企業の下請けがメインなんですが、最近はそれも減る傾向にある。そんな中で「障がい者でも稼げるんだ」ってことを証明する為に、福祉作業所自体がメーカーになってモノを売っていこうという動きがあるんです。 このリネンウォーターはそんな施設のひとつで、青空ポコレーションって団体のソラシードという施設で作られています。コスメ会社もサポートに入って衛生上の管理や設備投資をしながら、きちんとした工場として運営しているんですよ。 セルザチャレンジはこういう福祉の世界にも広げながら、少しでも社会が良くなればと思ってやっている活動です。

 

杉原:震災以降そういった活動がますます注目されてますし、関心の高い人が特に若者に多いようですね。

 

五十嵐:阪神大震災の時からこうした活動を行うNPOがすごく増えましたね。そして今回の東日本大震災後でも更に増えた。おっしゃる通り、特に若い人を中心に社会活動への関心が高まっているのを感じます。

 

<セルザチャレンジHP> https://sites.google.com/site/sellthechallengejapan/

リネン用芳香スプレー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こどもからおばあちゃんまでつかえる天然で優しいリネンウォーター。

木屑になった新潟の木材を活用し、障がい者就労支援施設がつくりました。

 

 

 

杉原:さて、話を戻しますが、これまでの日本の伝統工芸は、「技術はあるけどデザイン力がない」という現状がありましたが、今は洗練されて魅力的な商品が増えて「その商品をどう売っていくのか」が重要になる段階にきていると思います。そこで、PRに力を入れるメーカーも増えてきていますが、五十嵐さんは日本のモノづくりにおいてどんな課題を感じていますか。

 

五十嵐:これまでの地場産業は作り手、問屋などの役割分担が明確だった。でも今はそのボーダーラインが消えて、自分たちで全て出来るようになっています。ホームページやネットショップを立ち上げて、全国で販売が出来る。東京や海外の展示会に出展してバイヤーに情報発信をすることも出来る。ビジネスの仕組みが大きく変わったので、それについていかないと生き残れないと思っています。 その為にはモノを作ったあと、どう伝えていくかがすごく大事なんです。伝える先は生活者やバイヤー、メディアもありますが、伝えていく作業をきちんと整理して、どこまで出来るかがポイントになります。僕はそのとっかかりを作るお手伝いが出来ればいいなと思っています。

 

杉原:誰でもできる環境になっているからこそ、そこをしっかりやっていないといけない状況になっているのは感じます。特にホームページは企業を知る手段の重要なポイントの一つにもなります。これまでモノづくりに集中していた作り手だと見せ方が分からず、そのウィークポイントが露呈してしまうんでしょうね。

 

五十嵐:他の業界では小売りと製造の両方をやるのは当たり前になっているのに、インテリア業界ではまだまだ当たり前になっていない。そこを変えないと、この業界は他の業界に食われてしまうんじゃないかと危機感を覚えます。特にアパレルやおもちゃ業界は体力もスピードもありますから、この業界にとっては脅威ですね。   今のビジネスに合ったやり方、自分たちで情報発信をきちんとしていくことがこの業界の大きな課題ですね。

 

杉原:今の地場産業の情報発信で共通する問題点は何かありますか。

 

五十嵐:タイミングが悪いような気がします。例えば展示会出展の際に、バイヤーやメディアに来てもらう為の情報発信が丁寧にされていなかったりします。どこかで目的が展示会に出ることにすり替わってしまって、その出展からビジネスにつなげる為に伝える努力を怠ってしまっていることがよくあります。

 

杉原:自ら動いて人を呼んで、その商品を知ってもらわないと認知がされませんからね。中小企業だと人員的に難しいのかも知れませんけど。

 

五十嵐:ただ、今は近くにいなくてもメールやフェイスブックで一斉に情報発信が出来るし、ホームページでも告知が出来る。工夫次第で効率的に出来ますから、もっとコミュニケーションを大事に考えて動けるようになるといいですね。

 

杉原:五十嵐さんが今後Casokdoとしてやっていきたい事業や夢はどんなことですか。

 

五十嵐:やはり、一番やっていきたいのはデザインやインテリアを広めていくことで、今はその一つとしてPRをやっています。必要ならショップやイベント、商品開発を含めて何でもやっていきたいですね。特に日本のデザインを東南アジアへ広げたいと思ってるんです。

 

杉原:東南アジアですか?

 

五十嵐:まだ文化熟練度が低い東南アジアにこれからの文化を伝えていくのは、西洋じゃなく、東アジアの役割じゃないかと考えているんです。個人的に何でも西洋文化が基準になっていくのが勿体ないっていうのもあるんですけどね。アジアにはアジアの文化を残したくて。

 

杉原:日本のモノづくりに対してはどうですか。

 

五十嵐:伝統を守りつつ、今のスタイルに合ったモノづくりを手掛けていきたいですね。どうしても地場の皆さんはトラディショナルに寄りがちな部分がありますが、実際に使う今の人の事を考えたモノづくりを広めたいですね。モノづくりの内部にずっといると見えにくくなる点も多いでしょうから、生活者になり変わり、外部からそういった点をお手伝いしながら広める活動を今後もしてきたいと思います。

 

杉原:私も「伝える」ことを念頭に活動しているので、今日のお話しも大変参考になりました。 五十嵐さん、本日はありがとうございました。

 

 

 

 

五十嵐氏がPR活動をサポート。新潟市民が主体となった地域の魅力を発信するイベントも開催される芸術祭。

 

 

< インタビュアー 杉原 広宣 プロフィール >
1972年埼玉県生まれ。2001年より日本のモノづくりに関わるようになり、
これまで手掛けた製品開発、展示会企画などのプロジェクトは、有田焼、山中漆器、今治タオル、越前和紙など。
2011年にmonovaをオープン。各地域のモノづくりに貢献するべく今日も奮闘中。