対談

monova対談 Darjeeling
monova対談「Darjeeling」(ダージリン)は、monovaプロデューサーの杉原広宣が、モノづくりに関わる様々なジャンルの方々へのインタビューを通じて、モノづくりの今を伝えるWEBマガジンです。つくり手、流通に関わるつなぎ手、そしてモノの使い手、皆さんに読んで楽しんでもらえる内容を目指します。第10回目は、漆器流通業界の老舗でもあり先端でもある山田平安堂の4代目山田健太さんに、漆業界の未来について、お話しをお伺いします。
山田健太氏プロフィール
1972年に生まれる。慶應大学法学部法律学科卒業後、三井住友銀行へ入社。 将来は漠然と家業を継ぐ可能性はあるなと思っていたものの、基本的には、しっかりと銀行員を勤める決意で入社。しかし、バブル崩壊のあおりと、金融恐慌が発生し、当時のメインバンクより平安堂の再建を依頼され、銀行を2年少々で退職。平安堂に入社する。翌年、過労で先代が急死し26歳で代表取締役就任。 現在、社長歴16年。全て増収を達成。生産~販売まで一貫体制を整えることから、製造子会社「統々庵」を設立。「100年後の漆器産業に責任をもつ」という平安堂グループのスローガンを達成すべく、販売のみならず、若手職人の育成にも投資拡大中。

 

 

 

杉原:今回はダージリンも10回目を迎え、漆器流通業界の老舗でもあり先端でもある山田平安堂の4代目山田健太さんに、漆業界の未来について、お話しをお伺いしたいと思います。どうぞ、よろしくお願い致します。

 

山田:よろしくお願い致します。

 

杉原:何度かこの代官山の本店にも立ち寄らせていただいたことがありますが、以前は日本橋に山田平安堂はあったそうですね。この記事を読む方のために簡単に山田平安堂についてご紹介いただけますか?

 

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店内①

山田:そうですね、もともと山田平安堂は京都の漆器屋の流れを汲んでいます。1910年頃にその漆器屋の経営が傾いて品物が供給されなくなったようです。そのお店の東京店の店長をしていたのが初代だったのですが、東京の売場を無くしてはいけないとの産地からの声も大きく、一念発起して1919年に日本橋に山田平安堂を創業したのが今に続く始まりです。ここ代官山には1994年に移転をしてきました。

 

杉原:代官山はちょうど20年が過ぎた訳ですね。主にどんな商品を中心に販売をされていますか?

 

山田:創業当時は、京漆器や輪島塗、山中漆器などが多く、作家のものも扱っていました。初代には絵心があったこともあり、創業当時より、オリジナル商品を作っていました。

 

杉原:オリジナル商品の割合はどのぐらいですか?

 

山田:今では99%がオリジナルです。

 

杉原:それは凄いですね。デザイナーも社内にいるんですか?

 

山田:そうですね。私も社内デザイナー等とともに製作しています。

 

杉原:メーカーの一面もあるということですね。そうなると、作る難しさと同時に漆器を売るということに関して言えば、伝える難しさがあると思います。その辺りはどのようにお考えでしょうか?

 

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店内②

山田:漆器は日本の誇るべき伝統的工芸品ではありますが、私には伝統的だからいいものだ、という発想はないんですね。それはでも、消費者もそうだと思います。世の中に出ている様々な商品と比べてどう違うのか、やはりそこを伝えるのが重要ではないでしょうか?

 

杉原:確かにそうですね。

 

山田:漆で言えば、やはり伝えるべきは美しさだと思います。木製で軽いとか熱い汁モノを飲む器には良いとか、唇にあたるときに優しいとか、そういった機能的な優位点も確かに伝えるポイントになりますが、でもやはり漆は美しいという点は、世界共通に感じてもらえると思っています。

 

杉原:ヨーロッパも漆の黒には魅惑的な美しさを感じたそうですね。

 

山田:どんな時代でも美しいものは美しい。それに適う美しさが漆にはあるんですよね。造形や蒔絵などの加飾技法による美しさもありますし、それをしっかり伝えていきたいですね。

 

杉原:その漆も国産や中国産、また樹脂系塗料もあります。そういった原材料についてお考えはありますか?

 

山田:原材料による機能的な違いもあるので、一概に伝統的でないとだめだということは思っていません。私たちは、いかに暮らしが豊かになることに役立つか、そしてもう一つは100年後も漆器業界が健全な産業であることを目指しているので、マーケットの拡大に対応できる原材料や技術も取り入れていかなければならないと考えています。家族経営の規模でやっていたら、もしかすると、そういった伝統的な生産にこだわりを持つかも知れませんが、地域産業の規模で考えているので、そうなるのだと思います。

 

杉原:産地、産業の規模感で考えているということですね。

 

山田:1円でも多く産地にお金を落としたい、という想いが強いんですね。樹脂系塗料でも漆の塗装技術がいかせる訳ですから、それでその職人の仕事が生まれて、その職人の生活が豊かになればと考えています。

 

杉原:そうなれば、結果的に産業は続いていきますね。

 

山田:そこを山田平安堂はやっていかなければなりません。

 

杉原:職人の高齢化や不足の問題も深刻なようですね。

 

山田:そうなんです。職人も子供たちに苦労させるからと、継がせようとしないんです。技術の継承どころか衰退が著しく起こっていきます。そこで、私たちも近年、徐々に職人を雇うようにしてきており、熟練の職人が若手に継承できるような仕組みを整えていっています。

 

杉原:それは素晴らしい!私の想像ですが、いわゆる昔ながらの徒弟制度のなかで職人になるというより、現代的な会社組織のなかで漆器の職人として働くというのであれば、希望者は多いのではないですかね?親御さんも安心な部分もありそうです。

 

山田:私たちもたくさんの職人を一気に雇うことは当然難しいのですが、生産側の環境も整えていきたいと思います。

 

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ショパールの腕時計

杉原:販売側では、高級宝飾ブランドのショパール(ショパールの腕時計の文字盤に漆の技法が用いられた。)とのコラボレーションも大きな話題になっていますね。

 

山田:お陰さまでとても好評です。海外での販売数のほうが多いのですが、製作が追いつかないほどになっています。

 

杉原:業界の明るい話題ですね。職人の皆さんの希望になったでしょうし、その技術を存分に使えるという点で嬉しいでしょうね。

 

山田:食器というアイテムではそういう技術を使っても価格が高すぎて売れません。この腕時計は高価ではありますが、決して宝飾業界的には高い訳ではありません。技術を活かすステージを変えた結果、販売も好調で増産の要望を受けているくらいです。

 

杉原:漆の美しさやその技術が評価されたということですね。素晴らしいです。

 

山田:結果的にその職人は私よりも稼ぐようになりました。高い技術を持つ腕があればちゃんと稼げる、ということを証明できたようで、私もとても嬉しいんですよ。

 

杉原:そういう職人さんを増やせると良いですね。

 

山田:はい。簡単ではありませんが、やり遂げたいと思います。

 

杉原:今後は宝飾品アイテムも増えていきそうですね?

 

山田:先ほど話したように、1円でも多く産地にお金を落とすことを使命にしているので、やはり食器だけでは駄目だと思います。宝飾、ファッション、インテリアなどの高級アイテムのジャンルには、まだまだ進出余地がありますので、どこを伸ばしていくかを考えていかないといけません。

 

杉原:地域の拡がりもありますね。いずれは例えばフランス・パリに山田平安堂が進出ということも、どうでしょう?

 

山田:(笑)考えない訳ではないですけど、海外で売れている製品もありますので、いずれは世界中のどこでも漆器をデリバリーできるようになりたいですね。

 

杉原:今は、成田空港の出国側に直営店舗(天正堂の名称で展開)がありますね。

 

山田:お陰さまで10年近くが経ちましたが、好調です。国内だけでなく海外の方にも、漆の美しさを伝えていかなければなりません。

 

杉原:店舗といえば、日本橋にもお店をオープンしましたね?

 

山田:2014年3月にコレド室町にオープンしました。

 

杉原:創業の地に戻ったという側面もありますね?

 

山田:本店は代官山のままですが、そういう気持ちは多少あります。「創業の地にいつか再び。」というような目標を持っていた訳ではないのですが、いろいろな場所から出店のお話しをもらうなかで、やはりこの件のお話しをいただいた際は、少し気持ちが違いました。オープン直後に、日本橋の方から「お帰りなさい。」と声を掛けてもらったこともあるのですが、嬉しかったです。

 

杉原:日本橋の誇りを垣間みるようなお話しですね。代官山本店と賑わいを見せて勢いのある日本橋、そして国内の玄関口である成田空港やWEBショップ等、それぞれが連動しあって、今後もますます勢いがましていきそうですね。

今後の目標をお聞かせいただけますか?

 

山田:先ほど言った世界中で漆器がデリバリーできるようになることと別に、産業として漆器づくりができるように成長させたいですね。その為に、5年ぐらいで売上を2倍にすることを目指しています。そして職人も育てていきたい。

 

杉原:その規模に押し上げるためにも伝える作業も重要ですね。

 

山田:そうですね。漆を美しいと思わない人はいないですよね?これって凄い価値を持っている商材だと思うんです。

 

杉原:確かにそうですね。その価値を伝えきれていない。

 

山田:つまり、まだまだ私たちの努力不足とも言えます。漆の美しさをちゃんと伝えて、買って使ってもらえるようにもっと努力をしないといけません。もっと考えないといけません。漆は塗料だから、そう思えば宝飾の他にもいろいろな業界に用途が拡がる可能性がある。そういったことの他にも、いろいろなところに売りにいくなど流通を考える。製作から販売までトータルに物事を深く考えて未来を見据えなければいけないと思います。

 

杉原:なるほど〜!私も、もっと考えます。(笑)今日は、とても有意義なお話しが聞けたと思います。誰もが感じる漆の美しさの魅力を活かして伝えていけるよう、私も頑張りたいと思います。最後にmonovaも地域のメーカーを紹介していますが、何か一言(ひとこと)いただけますでしょうか?

 

山田:漆は塗料ですから、いろいろな原材料を使うことができますので、コラボもいつか出来るかも知れませんね。まだ、monovaは伺ったことがないのですが、今度ゆっくり見てみたいと思います。

 

杉原:ありがとうございます。産地間の連携で生まれる価値もあると思いますので、是非、ご来場ください。今日は貴重なお話し、誠にありがとうございました!

 

漆器 山田平安堂 http://www.heiando.com/