対談

monova対談 Darjeeling
monova対談「Darjeeling」(ダージリン)は、monovaプロデューサーの杉原広宣が、モノづくりに関わる様々なジャンルの方々へのインタビューを通じて、モノづくりの今を伝えるWEBマガジンです。つくり手、流通に関わるつなぎ手、そしてモノの使い手、皆さんに読んで楽しんでもらえる内容を目指します。
大谷啓介氏プロフィール
CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)、カルフールジャパンにてそれぞれMDを歴任した後、オールアバウト(2005年当時)のスタイルストア創設にマーチャンダイザーとして参加、その後EC事業の運営統括、ギフト特化オンラインショップCOCOMOの創設、専門家プロファイルの運営を歴任し、2012年7月より独立しKCmitFとて事業開始。規模は小さくても真面目にものづくりを続ける日本の企業の商品開発・ブランディング・販売における支援の他、日本のものづくりの力は、世界から必要とされていると強く感じ、ASEANのHUBであるシンガポールのクリエーターを起用したローカライズ商品の開発を軸に据えた海外進出をサポートしている。

大谷氏サブ1darjeeling_h2   

杉原:大谷さんはTUTAYAのカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下CCC)、カルフールジャパン、エンファクトリー(以下 エンファクトリー)と、全く異なる流通業種をご経験されて、今の日本のモノづくりメーカーと海外を繋ぐお仕事に就かれていますね。ここに至るまでに、どのような変化や想いがあったのでしょうか。

 

大谷:スタートはシンプルなもので、学生時代にバンドをやっていまして。エンターテイメントや音楽に携わる仕事に就きたかったんです。それでCCCに入社しました。MD担当としてTUTAYA RECORDS約500店舗の販売のデータ分析と仕入れに関わっていたんですが、この業界はメディアと購買の関係が顕著に表れる。全国の人間心理や地域差が見えて、とても面白くて勉強になりました。やはり作っているだけでは売れない、陳列や告知方法がとても大事だと思いましたね。

 

杉原:「売れること」と「PR」というのは重要ですね。費用対効果が見えづらいので、思い切った投資をできる中小企業は少ないですけど。より多くの消費者に商品や技術を知ってもらう努力や、ターゲットを知り、そこに合わせた提案をしていく作業はどの業種にも必要です。具体的な動きや反響を全国規模で見られるなんて貴重な経験ですね。その後、カルフールに転職されていますが、こちらはどのような経緯からでしょうか。

 

大谷:CCCには4年いたのですが、違う世界の流通も学びたくて、ネット業界か外資企業に行こうと考えていたんです。ご縁があってカルフールに就職したんですが、ビデオ、CD、本がメイン商材だった時と比べて、取扱アイテムの種類も価格の幅も格段に大きくなり驚きました。販売価格による売れ行きのメカニズムが見えて、本当に良い修行になりましたね。でも、時代のブームだった量産を中心にした低価格訴求流通のど真ん中にいて、疑問も生まれてきました。

 

杉原:それはどんなことですか。

 

大谷:作り手は安い価格で大量に生産する為に、材料費や人件費をカットせざるを得ない。当然手間をかけたものは作れず、消費者の手に渡る商品にも品質の本当に高いものはなくなってしまう。売り手も原価を押さえながら大量に売れる物を依頼するのは大変です。結果的に中国産の商品ばかりが店頭に並び、日本の製造業はどんどん苦しくなる。そうなると最終的にこの国では将来、売り手も作り手も消費者も「いったい誰が幸せになるんだろう。」と思ったんです。

 

杉原:なるほど。

 

大谷:ちょうどインターネットのあらゆる可能性が見えてきた頃で、ネットでならミニマムな数量から売っていくことができる。「これまでの流通の流れを変えられるかもしれない。」と思い、エンファクトリーに転職しました。

 

杉原:日本のモノづくりと関わるようになったのは、そこに入ってからですよね、日本のモノづくり業界の第一印象はいかがでしたか?

 

大谷:真面目で口下手か、または語りすぎてしまうか…。消費者との自然なコミュニケーションが不得手な方が多い印象でしたね。これまでの流通形態だと、作り手と買い手がふれあう機会は少なかったので無理もありません。そういった部分でもネットに可能性を感じました。

 

杉原:インターネットでなら量産が難しい工芸品でも生産のタイミングに合わせて販売していくことができます。コミュニケーションが苦手な人でも、情報を整理してキチンと伝えることもできる。そう考えると、ネットが持つライブ感は日本のモノづくりとの相性がとても良さそうですね。

STYLE STORE 2013.10月現在

STYLE STORE 2013.10月現在

 

大谷:作り手からダイレクトな発信ができて、買い手からのレスポンスによる励みや商品開発のアイディアも得られる。買い手は商品のスペックだけでなく、込められたストーリーを知って、納得して良いものを手に入れられる。そういった場を作るために「All Aboutスタイルストア(2005年当時名称)」(以下スタイルストア)が生まれました。

 

杉原:スタイルストアは、オンラインのセレクトショップでありながら、作り手と買い手のコミュニケーションが取れるようになっていますね。産地の情報も豊富です。作り手や買い手にうまく活用されていくと良いですね。

 

▼STYLE STORE

http://stylestore.jp/

大谷氏サブ2darjeeling_h2

杉原:大谷さんがシンガポールへの進出を決めたきっかけは、何でしょうか。

 

大谷:2009年にドイツのアンビエンテに立ち会ったんです。ジャパンスタイルの宣伝取材の為にスタイルストアとして同行したんですが、海外の反応を間近で体験して海外進出への課題がはっきり見えました。駐在スタッフの有無や言葉、サイズ感などの「ほんの小さい壁」だと感じたんです。

 

杉原:客観的に改善点のディティールが見えたんですね。

 

大谷:そう、海外に出るためには海外のニーズに合わせたモノづくりをすること。今ある物をそのまま出すだけではなく、市場に合わせてローカライズすることが大切です。モノづくり自体の評価はパッケージ等も含めて海外でもとても高いんです。

 

杉原:海外の規格に合わせたモノづくりは、これまであまり聞いたことがありません。ローカライズするにしても、世界は広いですよね。なぜ大谷さんはシンガポールを選んだんでしょうか。

 

大谷:2011年にエンファクトリーを離れてから今のプロセスを繋ぐ方向の仕事になったんですが、その頃偶然にシンガポールの企画の方からお誘いがあったんです。今でこそ注目されていますが、当時の東南アジアの経済にプロダクト市場の可能性は、まだこれからと言うタイミングでした。

 

杉原:プロダクトの市場がないところからのスタートだったんですね。どんなスタイルでシンガポールと日本のプロダクトを繋げているんでしょうか。

 

大谷:販売先である現地の感性に合わせるために、デザイン企画やマーケティング、PRはシンガポール側に任せて、私は商品開発のコンサル、日本のメーカーとのマッチングをメインとしてまして、今はシンガポールのセレクトショップ「S U P E R M A M A」のパートナーとして動いています。最近では有田焼のメーカーとの商品開発のコーディネートをしました。

 

杉原:どんな商品でしょうか?

 

大谷:現地デザイナーの絵柄で有田焼の豆皿を製作したんですが、これが人気でよく売れています。その理由が絵柄のデザインなんですが、シンガポールの「団地」の絵なんですよ。(笑)

 

杉原:デザイナーが「団地」をモチーフに選んだのには、どういうコンセプトがあったんでしょうか。

 

日本との共同開発も手掛けるシンガポールのショップ

日本との共同開発も手掛けるシンガポールのショップ

 

大谷:まず、シンガポールでは家でごはんを作らない。価格の高い日本のお皿は飾りで基本的にギフトです。そしてシンガポールでは団地に住んでいる人や団地で育った人がとても多い。団地の絵柄はユニークなだけでなく、多くの人に懐かしさや親しみをもたせる、シンガポール人にとって持っていると嬉しい素敵な贈り物になっているのかもしれませんね。

 

杉原:現地ならではの発想だったんですね。しかし、よく日本のメーカーがその柄を受け入れてくれたと感心します。日本の工芸が高いレベルで保たれている背景には、伝統や今の形に誇りを持っている職人が多いという事があります。難しい課題もありそうですね。

団地モチーフの有田焼豆皿-HDBシリーズ

団地モチーフの有田焼豆皿-HDBシリーズ

 

大谷:現地でも新しい日本のメーカーを紹介すると「そのメーカーは、オープンか?」とよく質問されます。職人に受け入れてもらえないこともあります。両者共通の理解がないと作れないんです。その調整が私の仕事です。現地の背景や狙いを伝えて、シンガポールのパートナーにも日本の工場に足を運んでもらっています。日本には外国の意見をオープンに受け入れる度量が求められますね。

 

 

 

大谷氏サブ3darjeeling_h2

SUPERMAMAとのコラボレーションレーベルDemocratic Society

SUPERMAMAと大谷氏のコラボレーションレーベルDemocratic Society

杉原:海外進出を目指すモノづくりメーカーはとても多いのですが、何かアドバイスを頂けますか。

 

大谷:まずは「本気で売りたい」気持ちですね。「売れたらいいな」くらいでは宝くじと変わりません。海外の突飛なアイディアを受け入れられるかどうか、要求に対して工夫が出来るかも、「売りたい」という強い気持ちがあれば、お互いの信頼を築いていくきっかけになると思います。気持ちがあれば、最低限の日常英会話でも繋がれますよ。

 

杉原:シンガポールと日本を繋ぐ際に、どんなご苦労がありますか?

 

大谷:先ほどの「団地」の話にも出ましたが、現地と産地の想いや意図がなかなか通じない事でしょうか。販売先である現地の希望を実現する為には、日本企業も変わらなきゃいけない時がある。

Democratic Societyのサイトでは製造した日本メーカーを紹介している。

Democratic Societyのサイトでは製造した日本メーカーを紹介している。

それには、まず相手先への理解と信頼があることが前提です。顔が見えない違う国の人間同士ですから、間に入って双方を理解し、双方から信頼してもらえる人間が必要になります。

 

杉原:そこが大谷さんのお仕事なんですね。中間業者を入れずに、大谷さんが産地メーカーと販売店と直接やり取りされることが多いのでしょうか。

 

大谷:できるだけ産地と販売店をダイレクトに繋いでいます。ネットで産地の国の価格も見られますから、業者を挟んで日本との価格差が大きくなってしまうと販売に響いてしまいます。それに、その方がお互いの信頼につながりやすい。「大谷が信じている会社なら大丈夫」と考えてもらえます。

 

杉原:双方が大谷さんを介して信頼を築いていくカタチですね。人間関係の距離が近ければ、お互い提案もしやすくなりますね。シンガポールと日本メーカーの面白いコラボ商品が生まれそうです。大谷さんが「これはシンガポールに紹介できる」と判断する基準は何ですか?

 

大谷:「うちでしか」または「ここでしか」作れないものや技術があるかですね。価格帯は現地の日常で普通に使ってもらえるものを私は目指しているので、あまり高くないものが多いです。

 

杉原:デザインをシンガポールのデザイナーに任せているとの事ですが、日本のプロダクトデザインについて大谷さんはどう評価していますか?

 

大谷:世界に引けを取らない高いレベルだと思います。意識も高い。ただ、売れないとロイヤリティがでない。ビジネスとして考えるには構造が難しいですね。デザイナーがそのビジネスの枠組みごとデザインできたら、もっと生き残りやすんじゃないでしょうか。シンガポールデザインと日本の製造という組み合わせは、その方が現地で響きやすいからです。

 

 

杉原:今後はどのような展開を目標にされていますか?

 

大谷:技術の保管庫「日本」と、タイやシンガポールなどの枠を超えた大市場「アジア」をもっと繋げていきたいですね。これを作るならここ!と言える引き出しをいかに作っていけるか、信頼をどれだけ勝ち取れるか。今は移動の時間も交通費用も格段に便利になって、意識的な世界地図の距離がどんどん近くなっています。ビジネスも大きな枠で見られる環境です。

 

杉原:顔を見て仕事をするにもスカイプやチャットもある。そういった意味でも海外に対してどれだけオープンになれるか、売りたい強い気持ちを持って動けるか、今の日本は試されていますね。

 

大谷:そうですね、信頼と気持ちがあれば物理的な距離はもう関係ありません。

 

Tokyo Designers Week2013にDemocratic Societyのすべての商品が展示される。

Tokyo Designers Week2013にDemocratic Societyのすべての商品が展示される。

杉原:今後の展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

 

▼SUPERMAMA
http://www.supermama.sg

▼Democratic Society
http://democraticsociety.sg

▼Tokyo Designers Week 2013.10.26-11.04

http://www.tdwa.com