対談

monova対談 Darjeeling
monova対談「Darjeeling」(ダージリン)は、monovaプロデューサーの杉原広宣が、モノづくりに関わる様々なジャンルの方々へのインタビューを通じて、モノづくりの今を伝えるWEBマガジンです。つくり手、流通に関わるつなぎ手、そしてモノの使い手、皆さんに読んで楽しんでもらえる内容を目指します。この第一回目は、monovaでも紹介している株式会社高田製作所の高田晃一氏との対談です。
高田晃一氏プロフィール
富山県高岡市を代表する鋳物メーカー、株式会社高田製作所 常務取締役。 宝塚造形大学プロダクトデザイン学科卒。自らもデザイナー、技術者として高田製作所の代表ブランドを手掛ける。2005年イタリアミラノサローネにて花器がMolteni&C Dadaのキッチンツールにセレクトされる。以降、加賀武見、Nicola Gallizia、Andrea Branziら著名デザイナーと花器ブランド「フィオリキアリ」シリーズを発表。2009年純錫のインテリアブランド「SHIROKANE(シロカネ)」をフランスのメゾン エ オブジェに発表するなど、海外においても積極的な活動を続けている。

花器「フィオリキアリ」シリーズ

杉原:まず初めに地域のことからお話して頂けますか。高田製作所は高岡市の伝統工芸高岡銅器のメーカーですね。そもそも高岡銅器とはどんなものなのか、簡単に紹介して頂けますか。

 

高田:富山県高岡市にはいくつかの伝統工芸産業があって、高岡漆器と高岡銅器が二大伝統工芸産業です。高田製作所というのは高岡銅器の部類に入ります。

 

 

杉原:漆器と銅器があるんですね。
高田:はい、そうなんです。高岡銅器の歴史は今から400年前。加賀藩前田利長が高岡城を築城するときに、産業が無かったこの町の為に、大阪の八尾から7人の鋳物師を連れて来て鋳物を作らせた。それを始めたのが高岡の戸出(といで)地区という今の高田製作所のある所でした。しかし、火事の不安や海運の必要性が増して金屋町に移動したんです。
初期の頃は鍛冶屋のように鉄で農耕具の鍬とかを作っていたんです。そこから徐々にお茶道具や花瓶、火鉢などの装飾品が増えていき、今は主に仏具を作っているんですけど…
なぜ仏具になったかは、誰も語っていないんです。(笑)

 

 

杉原:知りたいところですね。(笑)その仏具は何年くらいの歴史があるんですか?

 

 

高田:仏具はまだ100年経っていないくらいですよ。

 

 

杉原:仏具と言っても沢山ありますが、一般の人が目にするものだと何がありますか?

 

 

高田:おりんと燭台と花瓶ですね。あと、お香を合わせてひとつのセットなんです。

 

 

杉原:では高田製作所もそれを中心に作ってきたんですか?

 

 

高田:高田製作所の歴史はまだ浅くて、1947年に創業しています。私の祖父に当たる創業者の高田健は日露戦争後の満州国で働いていたんですが、満州事変後日本へ逃げ帰り、最初に働いたのが名古屋の造兵局。そこは大日本帝国軍の兵器を作る工場でした。鋳造の仕事に就いたのはそれが初めてです。
その戦争で人が大勢亡くなり、友達も親戚も死んで、自分は今後どうやって生きていこうかって思った時に「死んでいった人の為に、残された人の為に、仏具を作ろう。」という思いになった。そして、仏具はどこで作られているのか調べ、富山県の高岡市だという話を聞いた。
そこには戦争で子供を亡くした、身寄りのないおばあさんがいたので、養子縁組をして高田という名前を継ぎ、高田製作所という仏具製造工場を作ったんです。

 

 

杉原:兵器を作っていて、戦争で人が沢山死に、親戚も死に、物も何もない中、鎮魂の思いで仏具を作っていく人生を歩み始めた。そこで高岡に辿り着き仏具を作り始めたと。
そこから、65年経ったんですね。

 

 

高田:そして父が量産化を始めたんですね、機械を導入して仏具を一般の方にもお買い求め頂こうと。一般の方でも手に届く安い価格にする為に、生産の効率化を図った。

 

 

新作 蕎麦猪口、蕎麦皿、薬味皿のセット

杉原:今は仏具以外のものも作っていますよね。工場を見学させて頂いたときにあった排水溝のフタが意外で驚いたんですが、他にも一般の人の目に触れるものはありますか?

 

 

高田:はい、成田エクスプレスの食堂車のカウンターテーブル。あとドアのハンドルとか、
高岡の仏具問屋さんの下請もしています。

 

 

杉原:鶴や亀の形をした仏具が工場にもありましたね。現在は、どんな金属を扱っているんですか?

 

 

高田:真鍮、アルミ、錫と銅と白銅。白銅は百円玉がそれですね。
私が高田製作所に入るまでは真鍮しか扱っていなかったんですが、私がアルミやその他の金属も扱い始めました。

 

 

杉原:それぞれの素材には色々な特性があると思うのですが、2009年から錫を手掛けてSHIROKANE(シロカネ)というブランドを立ち上げたんですよね。
改めて錫の特性を紹介して頂けますか?

 

 

高田:錫全般に言えることなんですが、熱伝導効果が非常に高い。熱が伝わり易い金属だという事です。

 

 

杉原:つまり、冷蔵庫に入れるとすぐ冷えるというメリットがあるんですね?

 

 

高田: はい。高田製作所で使っている錫は、元々インゴットが99.99%。4N(フォーナイン)と呼ばれる高純度の錫を使っていますから鉛などの不純物が入っていません。だから食器として使えるんです。また、純度が高いと曲げることが出来るので、遊び心を取り入れたデザインのインテリアアクセサリーを発表しています。さらに花瓶にすると抗菌性が高いので水を浄化する効果があり、普通の花瓶より花が長持ちするメリットもありますよ。

 

SIROKANE アクセサリースタンド

杉原:今回の展示会(2011/9/11~9/13)には色々な商品が並んでいますが、これまでで評判が良いのはどれですか?

 

 

高田:樹木の形をしたアクセサリースタンドですね。テーブルウェアではビアカップがとても評判が良くて、生産が追い付かないほどです。

 

 

杉原:それは良かった。やっぱりお酒は美味しくなりますか?

 

 

高田:なりますね。よく冷えるというのもありますし、仕上げにもこだわって上品な梨地仕上げを施したので、クリーミーな泡立ちで味がまろやかになるように感じます。そんな効果を存分に発揮するため、新作では「そば猪口」も発表しました。そば猪口以外に小鉢としてもお使い頂けますし、それに加えてつゆの片口や薬味皿にもチャレンジしています。

 

 

SIROKANE 一重のビアカップ

杉原:手に馴染むいい器が揃ってきましたよね。上品で女性に似合う印象ですね。

 

 

高田:そうですね。男性はもちろんですが、特に女性に使って頂きたいとイメージして、デザインや仕上げにこだわっています。あと、ハレの日のアイテムとして、父の日や母の日、ご家族のお誕生日プレゼントとしてもお使い頂きたいですね。
実際に使ってみると本当に冷たくて、手からも美味しさが伝わる気がします。

 

 

杉原:SIROKANEブランドは色々アイテムが広がっていますが、
今後は、どういった方向性を目指すのですか?

 

 

高田:美しい日本のモノづくりを目指し続けていきたいですね。
「綺麗なところに綺麗なものが集まる」と私は思っていて、綺麗なところには綺麗なインテリアが集まる。綺麗なインテリアには綺麗な人が集まる。そういう美しいものを幸せの糧にできるような人が集まることによって文化は育つ。その為に我々の作るものは質が高くなければいけない。質にこだわりたい。当然、買って頂きたいからコストにもこだわりたい。人が使うからこそ、道具としてのデザインにもこだわりたい。そういったモノづくりを続けていくべきだと思っています。

 

 

杉原:質やデザインにこだわると同時に、コストにもこだわるというのは、やはり最初の
「一般の方に広く使って欲しい」という、お祖父さんの思いが今でも高田製作所にあるんですね。
今後は国内のみならず、海外でもご活躍されていくようですね。

 

 

高田:今回、ドイツとフランスとイタリアでも発表していますから、今後の展覧会情報を得ながら、文化に根差した、人々の幸せに寄与する商品を作っていけたらいいなと思っています。

 

 

杉原:ぜひ、これからも美しい商品を期待しています。
本日はありがとうございました。

 

 

< インタビュアー 杉原 広宣 プロフィール >
1972年埼玉県生まれ。2001年より日本のモノづくりに関わるようになり、
これまで手掛けた製品開発、展示会企画などのプロジェクトは、有田焼、山中漆器、今治タオル、越前和紙など。
2011年にmonovaをオープン。各地域のモノづくりに貢献するべく今日も奮闘中。