
杉原:3年ぶりぐらいに結城市の奥順にお伺いしました。古い建物をそのまま残して、結城紬のお店や歴史を学べる館もあり、またカフェもあるこの施設は、本当に心が落ち着くいい空間ですね。
奥澤(敬称略):ありがとうございます。この9月に新しくオープンした施設内で2つ目になる結城紬のお店(9月14日にオリジナルの結城紬を扱うアンテナショップ「澤屋」をオープン。)は、明治17年の建築で有形文化財にもなっている家屋を活かして使っています。
杉原:やはり和服の似合う佇まいで、絵になりますね。今日は、奥澤専務に奥順さんの結城紬のこだわりや、ご自身の想いを尋ねていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
奥澤:少し緊張しますが、よろしくお願いします。(笑)
杉原:奥順さんとは個人的に2009年に商品開発や展示会の装飾等の外部アドバイザーとして1年間ほどお手伝いさせていただいていて、毎月ここに訪問していたのですが、そのときはまだ、奥澤専務は奥順には在籍してなかったんですよね。少しだけ、その当時から今までの専務の活動をお聞かせいただけますか?
奥澤:そうですね、私は今32歳なのですが、5年前は陶磁器の会社で働いていました。私の曽祖父の代からこの奥順は始まっていますので、子供の頃から、いつか自分も奥順を引き継いでいくということは自然に意識していました。ですが、そのまま学生を卒業してすぐに奥順に入るというよりは、外で勉強をしてからがいいのではと思い、周りの環境もそれを理解してくれていたので、陶磁器の会社に入りました。
杉原:同じ伝統工芸でありながら、違う種類の工芸の世界に入ったのですね。
奥澤:最初に着物ではないことを経験しておきたかった。そのほうが、広い視野で会社の事を考えられるんじゃないかと思って入社しました。
杉原:入ってみていかがでしたか?
奥澤:瀬戸の会社だったのですが、その会社はレストランやホテル等の業務用を従来から手掛けていたのですが、一般消費者向けにも小売りを展開しはじめたタイミングだったので、いろいろな経験ができました。瀬戸に住んで開発に関わったり、ちょうど六本木ミッドタウンにも店舗を構えたタイミングだったので、店内の接客もしてましたよ。
杉原:開発から販売まで、一気に経験したのは貴重な経験ですね。
奥澤:イギリス留学時に入社が決まっていたんですけど、その会社がイギリスに本社がある高級シャンパンブランド専用のシャンパングラスをガラスの様に透けない磁器で作るというユニークな依頼を受けて、ちょうど私がイギリスにいるからということで、その開発の交渉をしたこともあります。片言の英語で何とか開発できたのは、いい思い出です。
杉原:それは自慢できる経験ですね。いいな〜。(笑)
奥澤:まだ組織も若くて、何でもやらせてくれたので、2年半ぐらいの在籍でしたが、開発、生産、在庫管理、また店舗運営までの流れを勉強できました。
杉原:その後、奥順ですか?
奥澤:一旦、奥順に籍を置いて、いわゆる丁稚奉公のようなかたちで南青山の呉服専門店で1年間修行していました。着物の基礎知識を学んで、そこで他の産地の反物も知ることができました。当然、結城紬の産地から来ていますので、お店では結城紬のことを聞かれたら答えられないことはないようにしようと、一生懸命勉強しました。最後、イベント企画を担当させてもらうことになって、案内状を書いたり、来場者のプレゼントを手配したり、一から企画を組み立てる中で叱咤激励を受けながらも何とかやり切りましたが、売上目標を達成してお客様、そして奉公先の社長に喜んでいただけた時は嬉しかったですね。
杉原:それもいい経験ですね。澤屋でも活きますね。
杉原:さて、それから奥順で結城紬に集中して4年目を迎える訳ですが、専務から見た結城紬の特徴を紹介してもらえますか?
奥澤:まず1つに、糸づかいです。蚕の繭から綿(わた)のようなふわふわした袋真綿を作って、そこから糸を紡ぐのですが、あまり撚りがかかっていない綿状の糸は、非常に空気を含んでいて手に取ると軽いのに暖かいのが特徴です。
杉原:シルクでフワッとした感触になるのは少し意外でした。
奥澤:そうですね。そこが結城紬の大きな特徴だと思います。それが2つ目にもなるのですが、風合いがとても優しいということです。カシミヤやアルパカも風合いはいいのですが、そうした動物の毛よりも一本一本の糸が細いので、そう感じると思います。
奥澤:もともとが幼虫を守るための繭ですから。
杉原:当然、人間の肌にも優しいですね。確かに奥順のショールを使っていますが、ウールのようなチクチクするようなことは無いですね。
奥澤:そういう声をいただくことは多いです。
奥澤:3つ目ですが、その風合いの変化を楽しめるということですね。使うほどに馴染むというか、柔らかくなるので、心地よくなってくるはずです。
杉原:天然素材の良さかもしれませんね。
奥澤:結城紬でジャケットを仕立ててもらっているのですが、見た目より軽く、それでいてすごく温かい。私は冬でもコートなしで、結城紬のジャケットだけで十分なぐらいです。
杉原:結城紬でジャケットですか!
奥澤:今年の9月、銀座の和光さんでオーダー会を開催し、今でもオーダーは受け付けています。その取り組みが今月号のゲーテの中でも記事にして頂いて、是非こちらをお読みの方にはチェックして頂きたいですね。着物を着ない人にも、こうした結城紬の良さを伝えたいので、着物を着ない人の暮らしにも溶け込むような製品を作っていきたいですね。
杉原:そうした想いのなかから生まれたのがショールだったんですね。
奥澤:そういった一面もありますね。結城紬のショールは数年前から取り組んでいますが、先ほど話したように空気を含みやすい特性を持っているので、寒い冬にも暖かく身体を包んでくれます。
杉原:私も使わせてもらっていますが、本当に暖かい。そして軽い。
奥澤:軽くて暖かいので、コート無しで過ごせる期間も長いと思います。
杉原:そうなんですよね。コートを持つまでではないけれど肌寒いなという時期は結構長いですよね。このショールを1枚で、マフラーのように首に巻いてもいいし、肩に羽織ってもいいし、膝掛けでもいいし、いろんな使い方もできるので、結局コートを使う時期も使うから、かなり長い期間使えます。
奥澤:膝掛けとおっしゃいましたが、冷房対策で使う方もいらっしゃいますよ。
杉原:では、一年中使えますね。(笑)
杉原:近年は海外の展示会も積極的に出展されていますね。
奥澤:イギリスやフランスの展示会に出展しています。ビジネス的にはまだですが、本場結城紬の良さを世界中に伝えていきたいです。
杉原:可能性はいかがでしょう?
奥澤:2010年には結城紬がユネスコ無形文化遺産にも登録されました。それを今のライフスタイルに合わせて形も含めたデザインで伝えていくことで、必ず理解、共感してくれる方はいると思います。世界にここにしかないものを作っている訳ですから、それを所有する喜びも感じてもらえると思います。自分たちとしては、それに応えるデザインと伝統技術を更に磨いていきたいと思います。
杉原:この場所の魅力も伝えたいですね。
奥澤:そうですね。国内の方はもとより、最近は海外の方もいらっしゃることが増えてきました。
杉原:それは嬉しいですね!お店やカフェ等、ゆっくり過ごせる場所があって、しかも歴史ある建物や中庭がある。そうしたなかで過ごす時間を提供できるのは素晴らしいと思います。
奥澤:ありがとうございます。この街並や空間も含めて、伝統を残していきたい。それを継承していくための基盤づくりを更に突き進めていくのが、私の役割だと思っています。
杉原:是非、頑張ってください!さて、最後になりますが、今度monovaギャラリーでも展示会をしますが、何か一言いただけますか?
奥澤:日頃、結城紬を身近な存在として感じてもらいたいと思って活動していますが、その一環としてmonovaで展示会を行います。ショールを中心にご紹介しますので、手に取り是非、その風合いを体感してもらえればと思います。
杉原:ありがとうございます。私からは、monovaギャラリーをきっかけに、是非こちら結城市の奥順にも、足を運んでもらえればと思っています。それでは、今日はお疲れさまでした。
奥順ホームページ http://www.okujun.co.jp
結城紬ミュージアム「つむぎの館」http://www.yukitumugi.co.jp
澤屋ホームページ http://www.yukisawaya.com